札幌高等裁判所函館支部 昭和24年(を)65号 判決 1949年8月24日
被告人
木村栄五郞
外一名
主文
原判決を破棄する。
本件を函館簡易裁判所に差戻す。
理由
前略
按ずるに被告人楡は被告人木村の共同被告人であるけれども被告人木村から本件パンを買受けた相手方であるから、被告人との関係に於ては実質上証人と同視すべき地位にあるものと謂ふべきであつて、かゝる関係に立つ共同被告人の自白は憲法第三十八條第三項及、刑事訴訟法第三百十九條第二項に規定する「自白」には包含されないものと解するを相当とする。原判決は被告人両名の檢察事務官に対する各供述調書、被告人両名提出の各違反取引一覽表を綜合して判示事実を認定してゐるから被告人両名にとつて右各供述調書及取引一覽表が相互に補強証拠となり、被告人の自白のみで犯罪事実を認定したとの違法はない。これと見解を異にする論旨は採用に由なく、論旨は理由がない。
然し乍ら、職権を以つて按ずるに原判決は、犯罪事実の第一として「被告人木村栄五郞は(中略)昭和二十三年十一月十日頃から同月十八日頃迄の間四回に亘り(中略)相被告人楡捨三に対しパン合計二十貫(二千個)を所定の製造業者販賣價格より合計一万二千二百八十個を超過する代金合計一万四千円で販賣し」と判示し右四回の販賣行爲を刑法第四十五條前段の併合罪として処断してゐるけれども、右四回の各販賣行爲についてはその日時、数量、代金等につき個別的な記載がない、從つて右各個の販賣行爲は具体的に特定されてゐないと謂ふべきである。然らば原判決は法令適用の基礎たるべき罪となるべき事実を特定することなしに法令を適用したものであつて理由にくいちがいがあること明白である。
よつて原判決中被告人木村栄五郞に関する部分はこの点に於て破棄を免れない。被告人楡捨三弁護人岡田直寬控訴趣意第一点は、原審判決は判決理由にくいちがいがあるものと思料する、原審判決理由中第二事実の摘示に於て「前示日時場所に於て数回に亘り」とあつて「何回」であるかを明解にせず且「前示日時」とあるに依り第一摘示を見れば「昭和二十三年十一月十日頃から同月十八日頃迄の間」とあつて数回の買受に付て果して何月何日何程の数量を買受けたと判示してゐないで、法律適用に刑法第四十五條前段の併合罪の適用をしてゐる。これは犯罪事実の認定として具体的に特定したと云えない、右は一罪であるか数罪であるか不明である。即併合罪を適用してゐるが事実と適條とがくいちがいがあつて、一罪としての認定か併合罪としての認定か判断に苦しむところである。これは当然に判決に影響するものであるから原審判決は破毀を免れない。と謂ふにあり、
右控訴趣意の理由あることは被告人木村に関する部分につき説明したところによつて明白であるから同被告人に関する部分も破棄を免れない。
更に被告人両名に関する部分につき職権を以て按ずるに原判決は被告人間に取引せられた「パン」昭和二十三年十一月一日物價廳告示第千九十二号所定の「其の他の菓子」に含まれるものと解して、その統制額を適用してゐることは判示販賣價格、超過額及右統制額を比照すれば明である。けれども所謂「パン」と称するものもその原料、製法の如何によつては右告示に謂ふ「生菓子」に属するものと解するを妥当とする場合もあるのであるから、この点について審理を遂げなければ統制額を適用すべき基礎たる事実の確定が出來ないと謂はざるを得ない、原審はこれ等の点について何等の取調をも爲すことなしに漫然と本件「パン」を「その他の菓子」に属するものとは認め難く「その他の菓子」に属するものと解すべき場合でもどんな品質、内容、規格を持つた菓子であるかは刑の量定に影響あるべきは当然であるから、右の如く本件取引のパンの原料、製法、利得額等につき取調を爲す必要があることは当然である。」從つて原判決はこの点に於ても全部破棄を免れない。
よつて被告人両名各弁護人の量刑不当に関する控訴趣意に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三百九十七條、第四百條によつて原判決を破棄し本件を函館簡易裁判所に差戻すことゝする。
よつて主文の通り判決する。